「モッズスーツとはなにか?」vol.3


「モッズスーツとはなにか?」の連載も第三回となりました。




sir FACEvol.1の裏表紙





1960年代のモッズのファッションが

1、個人のオリジナリティを大事にし、
2、他者との違いを主張し、
3、違い(=差異)をセンスと呼ぶならば、

60年代のモッズはある物量の中を仕分けし、違いを選び取ることに重きを置いた、と言えるだろう。
まず考えてみることは “センス” のこと “違いを選ぶこと” である。

しかし違いを選ぶだけで、個人のオリジナリティは出るのか?


レディメイドという概念がある。

レディメイドという「既にあるモノ」を使う概念は古く、19世紀のロシアの小説ゴンチャローフ著『オブローモフ』の中でも語られ、
他人の考えを自分の意見の中に採り入れ応用する意味に使われている。


《既製 ( =思想、モノ、文脈 )品 を選び出し、それを使って誰も考えなかった価値付けを行う。》


これがオリジナリティだ。


ファッションでよく話題になるスタイリング、スタイリストの仕事とはこの世界にあると言える。

だから、モッズのオリジナリティは既存の物事に新しい価値を与える行為として重要とされた。

リチャード・バーンズ著の『mods!』のダンス・ステップが紹介される段で、
「既にあるダンス・ステップに新しく踵を鳴らすステップを加えるだけでも、オリジナルであり、
フェイス ( = モッズの世界の開拓者、リーダー ) として尊敬を受ける」
とある。

モッズの世界では誰もが開拓者になれるチャンスがある。

このオリジナリティとは広い意味を持つ。


次に違いを主張するという、差異に重点がおかれると、一般的に個のオリジナリティは否定されていく。

他者と違いを出さねば、いずれ差違が無くなるからだ。

スーツとして同素材で作るテーラード・ジャケットとボトムスは、
着る人によってそれぞれが別の生地と色のコンポジション変更をたえずされる事になる。

スーツにおけるジャケットとパンツのシルエットは、一般的には黄金率と言われ、テーラー錬金術であり、
他者は触れられなかった。
しかし、違いが問題になると、スーツの個のオリジナルは否定され、多数の情報からスーツの黄金率は変更されていき、
メンズ・スーツをオーダーする理由は無くなり、日常生活での特権的な着物として着る必要もなくなる。
ジャケットだけあれば日常生活習慣には色々着回せると考えられてしまうからだ。



次回、いよいよ最終回へ続く