ティノコズマの残り香
こんにちは!長坂です。
昨日アップした新作の数々、
ブルードレスは今ノリにノッてるタイミング!
チェスターの在庫も早くも危うし!
是非、お早めにです。
そんな新作ラッシュの日々の隙間に先日、
目黒にある東京都庭園美術館に行ってきました。
ここは久邇宮朝彦親王の第8王子鳩彦王が1906年に創立した宮家で、アールデコ様式をふんだんに取り入れた建築に、ルネ・ラリックのシャンデリアまで使われている懲りまくりな建築。
来館時はまるで、20世紀初頭のヨーロッパの要人宅にお呼ばれするような気分です。
今回の目的はこの旧朝香邸に展示されている、
「クリスチャン・ボルタンスキー」
〜アニミタス−さざめく亡霊たち〜
という展覧会。
ご存じの方も多いかと思いますが、
ボルタンスキーは、今まさにフランスの芸術界を牽引する大作家。
もはや巨匠の粋に入る、現役です。
しかも今回の作品は全てここ数年の新作。
さらにはたった六点のみ展示という、
厳選中の厳選が熱くなります。
ここから先はネタバレになってしまうので注意!
↓
僕はこの展示が、今年のトップランクに躍り出るくらいの感動でした。
どの作品も素晴らしかったですが、
特に順路の最後に見れる、
展覧会タイトルにもなっている
「アニミタス」2015年作と、
「ささやきの森」2016年作、
という、同じ部屋に2つの映像が納められたインスタレーション。
これがヤバかった。
中に入ると照明が落とされていて、
まず驚くのが足の感触。
干し草と花が床一面に敷かれていて、
いきなりその感触にハッとさせられ、
世界観に取り込まれます。
歩くたび干し草の香りも飛散するように香って、その匂いと感触が空間内のリアリティを増大させます。
これはまるで自分が台座に上がったような、額装された世界の中に閉じ込められたような、強制的な参加感覚を覚えます。
その部屋のセンターにはスクリーンが鎮座。
その片面ずつに、
「アニミタス」→13分06秒の映像と、
「ささやきの森」→12分59秒の映像が映写機で写し出されています。
そしてスクリーンの両向かいには木製のベンチが置かれています。
ここに座るのが定位置か?と思い、
腰掛けその映像に目をやります。
このベンチもインスタレーションの一端なのでしょうから侮れません。
先に見たのが「ささやきの森」
定点カメラが写し出すその風景は、
森か?林か?緑の木々が生い茂る風景。
それが何処なのか?
は映像からは分かりません。
カメラの視点以外の空間の広がりも分かりません。
木々には風鈴と透明な札が取り付けられていて、微弱な風に風鈴が音を立て、揺れています。
透明な札が日差しを反射して美しくキラキラと瞬き、木や葉の上を光が濡らすのが印象的です。
スピーカーから流れる、風に揺れる葉の音も、風鈴の音も穏やか。
まるで部屋が映像と一体になるような錯覚を、一瞬覚えます。
しかしこの、
リアルなのか?
リアルじゃないのか?
分からないこの質感に戸惑いました。
スクリーンの映像は決して高解像度ではなく、リアルな見易さがあるとは言い難く(まるで夢の中の記憶みたい)、
スピーカーから風の音はすれど、
部屋には風は起きていないのが現実とのギャップ。
インタラクティブのようで、
インタラクティブでない感じです。
そうしてる内に映像の向こう側は、
いつしか遠い何処かの存在に変わり、
本当にそれは遠く手の届かない崇高な感覚に支配されます。
映像には人は写らなくも、
人がいた痕跡の風鈴と短冊。
それをじっと見て、目が馴れてくると、
実はその風鈴と短冊が画面上に実は無数に存在していることに、気づくと思います。
1個が2個。2個が3個と、徐々に徐々に気づき始めます。
そこには確かな個人の痕跡と、
過去に連なる起きた事実の時間と、
そして人がいなくとも動き続ける、
その場の生命感が溢れるてきます。
その時、先ほど感じたような、
作品と自分との不安定な関係は、
もう完全にうち壊されています。
もはや誰かの記憶?というか、
時間の記憶を追憶させられているような、奇妙な一体感に没入していきます。
この時も同じスクリーンの裏にはまた違う映像「アニミタス」が、
同じように音を立て、揺れ、風景を写し出しています。
もちろんそれは僕には見えません。
この表裏一体の環境もまた、この作品の魅力なのでは。と感じます。
風景が、情景に変わる時、
作品から受けとる事が出来る豊潤さに、
涙が出そうになります。
ちょっと何だか長たらしいので、作品についてはこの辺りで・・・
残りはお店でお話しさせて頂きたいと思います。
そして、僕はこのタイミングでもう1つ思うことが。
昨日告知させて頂いた、
イタリア・フィレンツェの名門ネクタイブランド「ティノコスマ」
のブルードレスによる別注ネクタイが入荷しましたが、
この件でちょっと考えちゃいます。
これは以前ミーティングをさせて頂き、発注をした「世界にブルードレスにしかない」別注ネクタイ。
しかも前回は断られてしまいましたが、
今回は実現した、
大剣幅5.5センチ、長さ145センチというブルードレスのスタイリングにバッチリなサイズで仕上げて頂きました。
なんとこれは余りにもナロー過ぎて、
ティノコスマさんの最高級ラインである、
「TINO COSMA Luxury Edition」
のロゴが大剣裏に収まりきらず、
切れてしまうという珍事まで起きてしまいました。
受けて頂けて本当にありがたいです。
そして、先ほど書いた「考えちゃう」というのが、実はティノコスマはこのミーティング後、ある企業に吸収される事になり、
ティノコスマ一族によるオリジナル・ティノコスマとのお取り引きは、
これが最後になってしまいました。
もちろんティノコスマはこれからも新しい方向性を手に入れ、
躍進をしていくと思いますし、
ブルードレスも今後ともお仕事をさせて頂きたいと考えています。
ただ、こうして歴史を作ってきたオリジナル・ティノコスマとの別注ネクタイに、ティノコスマとそれに関わった人々の、時間と記憶の蓄積を、僕は勝手ながら見てしまい、そして想像してしまうのです。
それはまるで、
ボルタンスキーの作品のように、
触れたことも、
会ったことも、
行ったことも無い、
何処かの誰かの記憶に、
自分が追憶してしまうような、
不思議な生命感に重なってくるようです。
ブルードレスをやってきて良かったな。
と、静かに想う瞬間なのでした。
チャンチャン。
「クリスチャン・ボルタンスキー」
〜アニミタス−さざめく亡霊たち〜
9月22日(木・祝)〜 12月25日(日)
会場/東京都庭園美術館