『コカ・コーラの魅力』vol.0




ペプシ


ブルードレスがショップをオープンするより前、モッズのイベント “ウイスキー・ア・ゴ ー・ゴー” をはじめるよりも前、90年代初頭は“ソウルフル・パウダー”というD J グル ープであり、イベント名で活動していた。

自分を含めて3人のグループだ。
(この中には今では某新宿百貨店でも人気の話題テーラーに入った O氏もいる。このソウルフル・パウダーの前の活動は次の機会に)


メンバーもパーティのスタイルも曲もイメージも今とはすべて違うが、ソウルフル・パウダーがブルードレスのはじまりなのは確かだ。

毎月1回、都内のカメラスタジオや音楽スタジオを借りてモッズのパ ーティを行った。

ソウルフル・パウダーでは、モッズらしい雰囲気を作る為に様々な趣向を凝らした事を覚えている。

こだわらないとエリートのモッズはこのパーティーを認めてくれない。フェイスが来ないパーティーでは成功とは言えない。

ソウルフル・パウダーには普段なら顔を会わせても口もきかない、話もしない幾つかのグループのモッズが集まった。

当時からモッズは特別な仲間の集まりを重視したから誰でも参加可能なナイトクラブでのパーティーは好まれなかったのだ。
知られなければ知られないほど、そのパーティーは特別だ。

ソウルフルパウダーも初めからモッズのためだけのパーティーであった。
しかし、紹介者が信用あるモッズの友人ならば歓迎された。

ソウルフル・パウダーはグループ化してしまったモッズのグループの外にいる、ファッション専門学校の生徒達やモッズや60'sに興味関心がある者や音楽に興味がある男女を集めることが出来た。どこかでフライヤーを見つけて来てくれた新しい仲間も来た、仲間うちゆえに信用から繋がりと広がりを作れた。

表向きには秘密のパーティーだからクラブ以外の場所で開催したいので、D J 機材を友人のモッドから貸りた。フライヤーデザインとコピー、都内の古着屋やレコード屋に配布するまですべて自分達でやった。
ゲストD Jを最上級クラスのモッド、ようはフェイスに頼んだり、スクーターの駐車スペース確認やチケットもぎりも自分達でやった。

しかし、一番大変なのは、クラブや飲み屋でない場所での飲食に関するものだった。

食べ物はさておき、コンビニが近くに無いような場所でパーティをやることもあり、遊びに来てくれたモッド達のアルコールへの欲求事に応えられなければいけない。

これは次回パーティの会場を借りる資金にもなるので、酒やジュースを自分達で買い付け、販売しなくてはいけない。

クーラーボックスなんて大きさでは駄目だ。

いくらモッズの仲間うちのホーム・パーティーをイメージしたものとはいえ、30人から40人は集まるモッズの社交界だ。

でかいドラム缶に氷水を入れて、ビールやジュースを冷やし、パーティのあいだ中、販売する。

リチャード・バーンズの写真集「mods!」にもあるように60年代には、まだ酒は特定のクラブでないと飲めない。ほとんどのクラブでは飲めないと言っていい。

60年代はコーラやオレンジ・ジュースをクラブで飲むわけだ。

ソウルフル・パウダーではこの時代の雰囲気を出すように心掛けた。

コーラは缶やスクリューキャップの1リットル瓶を買い、紙コップで出すというのはいけない。

栓抜きであけるタイプのレギュラー瓶を仕入れ、瓶にストローを直接にさして出す。そのストローはラインが入った古い青春映画で見かけるような物しか使わない、とか、そういうことだ。

当然と言えば当然ながら、コーラと言えばコカ・コー ラがアメリカのスタンダー ドだと信じるくらいに日本ではコカ・コーラがスタンダードだった時、パーティで出すべきコーラはコカ・コーラで良いと思った。

しかし、センスあるモッドから、1960年代のアメリカやイギリスの若者達でコカ・コーラを飲むのは田舎に住む者であり、都会ではペプシ・コー ラを飲んでいた。モッズは都会派だからペプシを選ぶのだと聞いた。

モッズのパーティをやるのだからペプシ仕入れたいが 90年代の日本ではペプシは買えない。

残念。そのパーティではコカ・コーラを販売したが、会場の壁には見える所に、古いペプシコーラの看板をかけた。

クラシックすぎる字体の見たこともないペプシのロゴの看板を古道具屋みたいなところで買って来たのだ。

ダンスフロアでサングラス越しに周囲を見ながら、キューバンヒールのサイドゴアブーツをコツコツ鳴らしてダンスする、向かいにいる相棒が格好よく踊る姿の肩越しに、確かに壁のペプシの看板がいい雰囲気を出していた。
なるほど、こんな感じか、皆んなに分かるのか、と勝手に気分はトッピング・アップしていた。

90年代、東京のモッズのパ ーティのこだわりにもコーラはファッショナブルな話題を提供してくれた。



つづく。