気取り屋達の照れ隠し

人の往来が見える席でソイツは、

レディースの香水を首筋から香らせ、
フィレンツェ製の鮮やかなタイをキュッと絞め直す。

小指にはゴールドのピンキーリング
タイバーとブレスレットはロンドンの最新モノらしい。

カフェテーブルに置かれたリルケの詩集は、
相も変わらず新品同様で一向に進んでいる気配がない。

だから僕は古本にしとけ、と言ったんだ。

「パリのデザイナー生地の今期モノだぜ。ちなみに裾幅16.5な。」
別に聞いてもないこだわりを語りながら、イエローのモカシンをフラフラさせて脚を組み、そのスラックスを街へ見せびらかす。

美に脳をヤられてるんだろう。
最近はベネチア・ビエンナーレでの田中功起の展示に注目してるらしい。

そんな会話へ割り込むように、
店の奥からメル・トーメの[Right Now]が聴こえてくる。
https://youtu.be/WT9PrTPLDZk

するとソイツは突如指を鳴らし
「クールってのはこういう曲の事なんだよ!」と話しの方向は急転化。

コーヒーカップのスプーンを45回転の様にクルクル回しながら、今度は終りの見えない音楽論が始まる。

置いたスプーンの位置はちゃっかりアメリカ式にカップの外側へ。
どうせ曲に合わせたんだろう。

それにしてもさっきから気になるのが、ソイツの脇に掛かったbluesdressのコートだ。

陽射しに濡れたそのカーキーが、キングスロードに並ぶ古い建物を思い出させる。

わざとらしくストライプの裏地が見えるように畳まれてるのは、気付いて欲しいからだ。

めんどくさそうだから触れるのは止めとこう(笑)

ソイツはこんな多国籍で節操もない気取り屋だけど、

「服を着るだけじゃカッコ良くはなれないぜ。」
と言う誰かの受け売りみたいな口癖には、僕も同意だ。

「ファッションてのは物を買うことじゃなくて、濃密なライフ・スタイルへのクサビなんだよね。僕らは物と相互して退屈な習慣を打ち壊さなくちゃいけない。たかが繊維だと言う奴らもいるが、僕らはヨーゼフ・ボイスのフェルトにだって美を見出ださなきゃいけないんだ。」

と、僕は返した。
やっぱり誰かの受け売りみたいなセリフで。

ちょっと照れ臭くはあったけど、
負けじと目一杯気取ってみせたんだ・・・

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今日もbluesdressは、そんなおぼつかない愛すべき気取り屋達のファッションを後押しします。

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